日本有数の豪雪地帯である長野県飯山市の農村において, 民家の建材と近隣植生との関連性を, それぞれの構成樹種の対照により検証した。築後少なくとも115年以上の民家1棟に使用されていた構造材 (スギ, ブナ, コナラ属, ケヤキ; 合計302部材, 総体積15.75 m3) のうち, 使用部材数, 体積共にスギが最大を示し (226部材, 9.49 m3), 1部材当たりの体積でみるとブナが最大となった (1,005 cm3/部材) 。近接する里山林は現在, おもにブナ二次林, コナラ-ミズナラ二次林, スギ植林地で構成され, 建材の樹種組成と類似していた。ブナ林分に認められたさまざまな発達段階からは, かつてのブナの持続的利用の形跡が示唆された。なかでも, 直径60 cm以上, 樹高24 m以上という大きなブナが優占する林分は, 水源林としての機能に加え, 建材を得る場としての役割をもっていた可能性がある。また, ブナが主要構造材に多用されていたことは, 大径木としてブナが優占林分を形成しやすいという豪雪地帯特有の風土にかなった建築様式であると考えられた。