本査読論文では、永澤論文にいくつかの難点があることを指摘する。まず、ジャーゴンを説明なしに使う傾向が強い。使用する概念の明確化が必要であり、またそのような概念を使用する理由が明確化されねばならない。第二に、タイトルと抄録からは、三人の思想家の概念の整理が論文の主目的と考えられるが、著者の主たる関心はケア労働の評価にあるのではないか。この不整合は正されなければならない。その上で評者は、著者が中心的に論じている という概念を再定式化し、協同的実践をおこなうなかで、個々人の生活の中での工夫や技を相互に触発しながら交換することとする。しかしながら、このような概念規定の正当性は論証されていない。また先行研究の選択が不適切ではないか。適切であると考えられるネグリ=ハートについても選択の理由の明示が不十分である。彼らに依拠する際に、彼らの問題点については触れられず、批判的距離が保たれていない。そして、以上のことが、思想のエリート主義的で権威主義的な利用に結びつきかねない。また、 と の逆説的な関係について著者は気づいているはずなのに、結論的には を肯定的にのみ評価している点を指摘する。学生のレポートをそのまま引用することの倫理的問題も指摘される。そして、最後に、学際性と独創性を重視するとしても、理解可能性を損なわないためには、最低限の論証の手続きがとられなければならないと主張する。